三浦義弘さんの「人の心をつかむ」お話。
これは約20年前の掲載されていた記事です。
僕にとってはとても貴重な昔の記事です。
少し前置きを話しさせていただきますと、
僕が会社員だった頃に、月一の会報的なものに掲載されていました。
当時、これは面白い内容だと思いまして、コピーして持っていました。
なぜ、月1回の会報の記事の中でもこれだけが気になったのかとか申しますと、
これが普段はない内容だったからです。
全部書くととても長くなりますので、
その中から一部を抜粋して書かせていただきたいと思います。
(それでも長いですけど、活字がお好きな方は是非お読み下さい)
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三浦でございます。
私は弘前市の禅林33ヶ寺という33軒の曹洞宗だけのお寺におります。
大抵、皆さん方の一番の興味は、あの和尚は一体幾つなのだろうと思うのです。
私は自分でいつも若いつもりでいるのですけれども、ある時にうちのお檀家の人に、
「和尚、おまえ何年生まれだべ?」と聞かれまして、
その時に私は「12年生まれだ」と言うと、「じゃあ、戦争はどちらに行った?」と言われました。
私は戦争に行ってないので、びっくりしまして、考えたら大正と間違ったのです。
それから私は必ず何年生まれと聞かれると昭和と大きな声で言ってから12年なのです。
今から4年位前に還暦(60歳)を迎えて、その時も檀家の方に「和尚はなんぼになったば」と聞かれまして、
その時もちゃんと答えればよいものの「ちょうどだ」と言ったのです。
そうしたら「ああ、そうか70か」と言われました。
年上に見えますけれども、私は昭和12年、当年とって64歳、傍らに来ると割と艶があるのですけれども、
十何年前からずっと糖尿病に侵されてまして、
今は朝、昼、晩3回インシュリンをうっております。
これは隠れてうっていますと薬(ヤク)と間違えられますので、最近は皆の前でうっております。
ここにある本(医者にならなかった坊主の話)は、私と医者の2人で書いたのです。
木村先生はうちの親父の最後をみとった先生です。
このお医者さん(木村然二郎)の好きなところは、
私はずっと患者で糖尿病を患って行ってますけれども、私が行くと、
「たまに来たから見ていけや」というので、最初はただと思って診てもらったが、ただではないのです。
聴診器を普通はここ(耳)に入れて診ますが、この医者は名医なので聴診器をここ(胸)へかけるのです。
そして私の胸を出せというから出して、
「この頃どうだ?」と話すので、
「おかげで元気でおります」と言うのです。
それでふと見たら聴診器が耳に入っていないので、
「先生聞こえるのか?」と聞いたら「聞こえるよ」と言うので、
「何聞こえる?」と聞いたら、
「お前の声が聞こえる」と言うのです。
そういう医者では良いではないですか。
今は青森刑務所の教誨師という仕事をしております。教誨師とか保護師とか何でも頼まれれば「はい、はい」というものですから、わりといろいろな仕事をしております。もう教誨師を20年やっているのです。
悪いことはしていますけれども、まだ捕まらないのです。
刑務所に行くと入っている人と一緒にお話をしたり、カラオケ大会の審査員をやらされたり、入っている人たちも非常に喜んでいまして、
「これで酒と女と煙草があれば、ずっといる」とこんな人ばかりでしたので困ったものでした。
私は、その刑務所の教誨師を頼まれた時に「お前やってみろ」とある先輩に言われて、
私はどきっとしました。
刑務所の教誨師というのは、罪を犯して、死刑の宣告を受けて、毎日が命日だと思って、どきどきしながら生活をして、
朝10時の靴の音が聞こえないとほっとして一日長生きをしたと暮らしている囚人に仏教の教えを説いて、罪を悔いながら、静にかに絞首台の露と消えていくという、そういう役柄の素晴らしい崇高な人格の人を思い浮かべましたので、
「私は駄目ですよ、私はできるような人間ではないですよ」と言うと、
私を薦めてくれた人は凄い饒舌で「いや、三浦さん、この仕事はあまり立派な人駄目なのだよ」と言うので、
「なんでだ?」と言ったら「あまり立派な人は入っている人の気持ちがわからない、一番良いのは入るか入らないか、すれすれの人が良いのだ、だから、お前に頼むのだ」と言いました。
そう言われたら断れますか、絶対に断れない。それでこれが20年も続いたのです。
今日は刑務所の話をしに来たのではないので、お話申し上げないけれども私は本当にいろんなことを刑務所の人から逆に教わりました。
皆良い人ではないのです。良い人なら入りませんけれども、行く度に何か感じることがあると思います。
私は最初に「あなた方は私の代わりに入ってくれている人だから早く出てよ」とそれしか言えなかったのです。
時々、刑務所を出て帰りにお礼にうちに来る人がいるのですが、そういう人はどこか違うから、うちの家内は怖がっていたのです。
それで私がいない時に「先生にいろいろお世話になりました。立派に更生をしてそのうちにまたお礼に参ります」と言って帰った人が何人かおります。
その時にうちの家内が私に「あなたより立派な人だね」と言いました。
これにはがかりしましたけれども、よかったです。
この前、ある高校の農業科の3年生、80人くらいに社会に出るための訓話をお願いしたいと言われました。
何でも頼まれれば、行くものですから、行ってきたのです。
それで話をしようと思って「みなさん、こんにちは」と申しましたが、誰もこんにちはと言いません。
知らん振りしてぼかっとして、がやがや話をしています。
これは困ったなと日本語の知らない世界に来てしまった、どうしようと思って、
習いたての「おっはー」と言ったら、急に皆も「おっはー」と言いましたので、びっくりしました。
これは日本語よりも「おっはー」の方が良いなと思いました。
それで1時間ちょっと話をしました。
モーニング娘の話とかスピードが解散した話とかそういう話は聞くのですけれども、他の話は聞かない。
だから、ちょっと話をしながらモーニング娘の話等をして、やっと1時間ちょっと終わったので、帰ろうとしたのです。
そしたら茶髪にピアスの17歳が後ろの方におりまして、そして急に私が帰ろうとしたら、ぱっと手を上げて、
「和尚さん、質問して良いでしょうか?」と言いました。
私はどきっとして、17歳くらいの子どもは怖いので、その辺りに金属バットがないかなって思いましたがなかったので、
「何でも良いから聞いて下さい」と言うと、
「和尚さん、どうして頭を剃っているのですか?」と聞いてきたので、私はその時にあまり考えて言うと馬鹿にされると思い、すぐに、
「格好良いからだ、格好良いだろう、頭剃って、衣着ていると、格好良いのだよ、頭伸ばして衣着たって、格好悪いだろう、あなた方もそうだろう、茶髪とピアスが格好良いのだろう」と言ったら「うん」と言った。
「じゃあ、俺も同じだよ」と言ったら、
「同じだってよ」と言ってがやがやしていた。
そしたら急に今までと違う和やかな雰囲気になったのです。
私は最初、部屋に入ったときに茶髪とピアスを見て恐ろしいと思い、恐ろしいというよりも、こんなものという軽蔑した眼で見下げたのでしょうが、そんな質問をしている間に可愛くなってきてしまったのです。
それで向こうも心を許すようになり、帰りにはジャムだとか鉢植えの花とかをくれまして、貰ったから喜ぶわけではないですけれども、
やはり人間というのは話をしてみないとわからない、見かけだけでそんなことを決めてはいけないと思い帰ってきました。
それからラジオ「えのさんのおはようサンデー」のえのさんとちょっとお話をすることができて良いことを聞きました。
皆さんにも参考になると思いますが、聞いたことのある方はまたかと思って聞いて下さい。
これは今の天皇ではなくて、昭和天皇のお話で、人の叱り方というお話をして下さいました。
四宝というのをご存知でしょうか、書道の硯、墨、紙、筆、これを四宝と申しますが、
あるときに昭和天皇が朝起きて来られて、入江侍従長が「御上、四宝の準備ができました」と言ったそうです。
「おお、著名か」と言って、昭和天皇が次の部屋に行かれたそうです。
その時に四宝の用意が出来ており、天皇が書こうとしたら、薄墨で、まだ墨が磨っていなかったのです。
薄墨はどういう時に使いますか、お布施を書く時にあまり濃い墨では駄目で、お悔やみも薄墨です。
それを天皇は気が付かれたのです。
さあ、皆さんはどうしますか?
私共だったら「何だ、墨も磨っていないではないか」と大抵は怒ります。
ところが、昭和天皇はどうなさったかというと、入江侍従長に、
「入江、墨の濃さはこれで良いのか」と言ったそうです。
この人の叱り方というか、相手に気付かせる「ああ、御上申し訳ございませんでした」と言って磨ったのでしょう。
例えば、「ああ、くたびれた、飲みすぎた」と帰り、風呂に入ろうとしたら、風呂は上が熱くて、中に入ってみるとものすごく冷たかったら、
「なんだば、お湯まだ冷たい水じゃないか」と大抵は怒るでしょう。
味噌汁を出された時に、ものすごくしょっぱかったり、ものすごく甘かったら、必ず我々はすぐに頭にきて怒りますが、その時に昭和天皇を思い出して下さい。
「ひろこ」はうちの家内ですけれども「ひろこ、風呂の熱さはこれで良いのか」、「ひろこ、味噌汁の濃さはこれで良いのか」と、
これから今日来た皆さんは、決して怒らず、相手に気付かせるように何でもそう言って下さい。
「部屋の温度はこれで良いのか」と「ああ、寒い」なんて言っては駄目です。
この話を聞いて私は相手に気付かせる、こういう生き方に本当に感動したのです。
まだまだこの記事はありますが、これでも長くなりすぎました。
ありがとうございました。